かきつばた

柳河の
古きながれのかきつばた、
晝 (ひる) は ONGO の手にかをり、
夜は萎 (しを) れて
三味線の
細い吐息 (といき) に泣きあかす。
鳰 (ケエツグリ) のあたまに火が點 (つ) いた、
潜 (す) んだと思ふたらちよいと消えた。)

① ONGO は良家の娘。上の写真のようなイメージ。


日本近代文学大系 (角川書店) 北原白秋集にある注釈によれば、 “昼は Ongo の手にかをり” は、昼は良家の娘たちに触られた意で、 喜びの暗示。“夜は萎 (しお) れて…泣きあかす” は痴情を思う悲しみの暗示とある。 では喜び、悲しんでいるのは誰なのだろうか。

それは冒頭にある “柳河の古きながれのかきつばた” である。 この五・七・五の俳句のリズムを伴ったフレーズは “柳河に古く代々続く北原家” を表すもの。 かきつばたは北原家を意味するとともに、 ここではトンカジョン(長男)である白秋自身を指すものであろう。

ちなみに北原家の家紋は「花菱」で菱は一年生の水草である。 このことからも掘割の流れにある「かきつばた」で北原家を象徴したものと推測される。

それにしてもこの喜びと悲しみのなんとたわいなく入れ替わることか。 そのことを鳰 (かいつぶり) のあたまが 夕日に照らされ赤く染まって火がついたように 見えたと思ったら、潜ってすぐ消えたと、 いとも簡単に変わってしまうことを 子供達の囃詞 (はやしことば) にのせて自嘲的に表現している。

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