[ 0021: 憂国忌の首なし三島先生 ]


2017年11月25日、私 (湯会老人) は所用があって渋谷に出かけた。 考えてみれば 憂国忌 である。

例によって「いま話題の女子会」のご婦人がたがワイワイ楽しそうにはしゃいでいる。 その横を (東 であったか) 男どもはややうつむき加減にただ無言で通りすぎてゆく。

ご婦人がたの中でひときわ異彩を放つのは、異様なタヌキメークをした女史なのであった。

「いい、私たちは某アベ政権を打倒し、 日本に明るい未来を作るため戦うのよ」

しかし、過日の衆院選において計算外の惨敗を喫したため、 どこが目がうつろ。

「なんだ、なんだ。何を騒いでおる」
ロココ調の声が聞こえたので振り返ると、 ハロウィンみたいな首なし男が歩いてきた。 まるでホラー映画ではないか。 ん、この声は 1969 年 5 月 13 日、東大駒場で聞いた声。 声帯が両断されていて声が出せるのか。

「立ての会」 (楯の会) のものとおぼしき制服を着ているので間違いない。 三島先生だ。 首なし三島先生は さらに「いま話題の女子会」グループに歩みより、にこやかな口調で語りかけた。

首がないので表情まではわからない。

「君たちが女権拡大のため戦う志はわかる。 君たちが天皇を天皇とお呼びたてまつれば、私は喜んで君たちと手をつなぐであろう」
「なによ、私たちは渋谷の夕べを楽しみに自由が丘から来ただけよ。 天皇制とはカンケイありません」
「しかし、いま話題の憲法改正に向けて...」

「三島先生、何を言ってもわかる連中じゃあありません」
「何だ、君は。60代と見受けるが」
「はい、私はあの頃駒場で19才でした。駒場寮で法研 (法学研究会)。 のちに武村正義を破って国会議員になった 小西哲(あきら)と同じ部屋でした」
「君は改憲賛成、天皇制支持だな?」
「いえ、私は全共闘の従軍漫画家でした。もう67才。 三島先生のご享年 45才 をとっくに過ぎてしまいました」
「それはよい。君が陛下を陛下とお呼びたてまつれば、君とも一緒に戦うぞ」

おりしも、市が谷からジープに乗ってきた国防軍 (自衛隊) の有志があらわれた。

「先生、私たちはいまこそ決起します。 こころおきなく戦わせていただきたいのです」

三島先生の首から涙が大量に滴り始めた。 首を切られたので、新しい涙腺が胴体のどこかに発生したのであろう。

「いま話題の女子会」のご婦人がたはあきれてながめている。 一同は自然にハチ公前方向に向かい始めた。

「ときに、いま話題の女子会の諸君。 私は女子会という不潔な言葉が嫌いなのだ。いまこそ、日本文化を防衛して」
「何よ、アナクロなことばっかり言って」

「いま話題の女子会」の何人かがハンドバッグからティッシュペーパーを出して 首なし三島先生や国防軍に向かって投げつけはじめた。 間違えてパンティーを投げたご婦人もいて、 偶然それが三島先生の首にぺったりと貼りついた。涙が接着剤なのだろう。

「わはは、ちばけとる」
ハチ公の前にみすぼらしい着物と帯の着流し姿で老人がすわっている。

「こ、これは。あこがれの熊楠先生ではありませんか」
総社、熊楠じゃ」
「熊楠先生、なんで岡山弁の冗談をご存知なのですか?」
「わしはラテン語でもブリテンの学者らに負けとらん。 狭い日本のことなど何でもしっとる。総社のことも」
「ははあ」
「あんたの幼少時代は...」
「先生、私のことなどいま話題ではありません。問題はいま話題の女子会について」

「昭和天皇陛下に粘菌をプレゼントたてまつった熊楠先生、三島であります」
「おお三島くん。元気で死んどったか?」
「私の生死はいま話題ではありません。問題はこの女子会でありまして」
「君が感じ取るように、ジョシという言葉は音韻がわるい。 子音がきつすぎてたしなみがない」
「では熊楠先生、どのように?」

こんどはいま話題の女子会のご婦人がたが興味深そうにまわりをとりかこんだ。 いつのまにか某タヌキ女史(ジョシ)は逃げている。 自らの音韻の悪さを恥じたのであろう。

「いっそのこと、こうせんかのう。 「おんな会」にせえ。 男どもは「あれが、オンナかい?」と言って笑うじゃろう」
「わはは、それは面白い」

たまらず、三島先生が大笑いを始めたので、パンティーが吹き飛んだ。 それを見た一同も大笑い。いつのまにか「おんな会」になった皆さんも笑っている。 渋谷の夜は和気のままふけていったのであった。

iPhone のニュース速報では 広島二区で圧勝した自分党の某アベ氏がクレヨンで赤く塗ったままのスーツ姿で写っていた。 「いま話題の」は女子会から改憲論議に移るにちがいない。


[ 南門疾矢君のコメント ]

うわー、湯会老人。こんなハチャメチャな社会風刺 (political parody) も書かれるんですか。 登場人物がイチイチそれらしい。読みながら大笑いしました。

「悪魔の手毬唄」 (1977) に描かれている旧い因習に縛られた岡山の山奥の村の物語。 エンディングで金田一耕助と磯川警部が別れを交わす「総社駅」。 重要な質問に対して「Yes / No」で答えず ただ「総社 (そうじゃ = Yes)」駅が写るだけでしたね。 まさしく「難問を解く推理ドラマ」。レンタル BD で観ました。

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