[ 0138: 菊と刀 ]


[ Ruth Benedict (1887-1948) ]

名著「菊と刀 (Chrysanthemum and the Sword)」 を書いた文化人類学者 (cultural anthropologist) です。 この本は終戦の翌年 (1946 年) に書かれた点で大きな歴史的意義を持っています。 「菊」はいうまでもなく天皇家、「刀」は武士道の象徴です。

ニューヨーク州シナンゴ・ヴァレーで生まれ、 はしかによって片耳の聴力を失ったと伝えられています。 1914年 Stanley Benedict (生化学者) と結婚。

頭脳の優秀さを証明する事実として、1921 年 34 才でコロンビア大学博士課程に入学。 9ヶ月で博士論文「北米における守護霊の観念」を審査用に提出、 1923年に学位を取得したことがあげられます。

彼女は戦争情報局の日本班チーフをつとめたこともあり、 「Japanese Behavior Patterns (日本人の行動パターン)」 の源泉を解明しようとしていました。 驚くべきことに、彼女は訪日経験はありませんでしたが、 日本に関する文献の熟読と日系移民との交流を通じて、 日本文化の解明を試みたと言われています。 読破した本の中には夏目漱石の『坊ちゃん』の英訳も含まれています。 ( 翻訳の質は大丈夫だったのでしょうか? )

これ以上の経歴の詳細は略しますが、1946 年の 11 月に「菊と刀」を刊行。 さらにコロンビア大学に復帰。全米女性大学人協会の年間功労賞を受賞しました。

1946-47 年の期間は、アメリカ人類学会 (American Anthropological Association) の会長。

ベトナム戦争の頃に生まれた私はニューヨークに留学して アートやらカルチャー全般の勉強をしましたから、 太平洋戦争が終結した直後にアメリカから見た日本像を知ろうと興味深く読みました。

本書に対する評価はそれぞれの論者の立場によってさまざまです。

Wikipedia から抜粋しますと:

"作家のポリー・プラット (Polly Platt) は、 著書「フランス人 この奇妙な人たち」の日本語版への序文で、 「菊と刀」により日本の文化のすばらしさを知ったと述べている。 ハリー・スタック・サリヴァン (Harry Stack Sullivan: WHO 設立にかかわった精神科医/社会心理学者) も出版後早期に書評を書いている。

左派的活動でも知られる日本文化研究家、ダグラス・ラミス (Douglas Lummis) は著書『内なる外国』 (1981 年) で、 『菊と刀』には未開民族を見るようなまなざしがあるとして批判している。

また、高野陽太郎は「日本人は集団主義である」という誤った通説が広まったきっかけであるとしている。加藤恭子は著書で、戦時中に書かれたものゆえ、罪の文化のほうが恥の文化より優れているという視点から書かれており、日本人は非道徳な国民という印象付けがなされたとしている。"

私なりに重要なポイントを要約しますと:

「どの国の人々も独自のレンズを通して世界を見ている。 そのレンズを通して与えられた世界はあまりにも自然なため、 意識する (メガネをはずす) ことは難しい。 そのような時は眼科医 (文化人類学者) が必要になる」
面白い比喩ですね。

アメリカと日本での成金 (成り上がり者) への扱いにも大差があるとしています。

  • アメリカ社会の場合は「自由 (freedom) と平等 (equality) を重んじる」ため 成金はポジティブとネガティブな意味を同時に持つ。

  • いっぽう、日本社会の場合は「秩序と階層的な上下関係に信を置く」ため、 成金は常にネガティブな意味を含意する。なるほど。

ベネディクトが主張しているのは:
要するに「日本人の行動の前提となるのは階級制である」ということです。 それがさまざまな例にスペクトラムのように、あるいはプリズムのように現れています。 眼科医(文化人類学者)が分析したとおり。

本書が意図した読者はアメリカ人です。 日本人は彼女の着眼点に敬意を払いつつ距離をおいて読むべきですね。

( 浅見多絵 )


[ 大宙麗亜ちゃんのコメント ]

多絵おばちゃん、ためになる記事ありがとうございます。

むかしの日本はそんなだったんですね。
私たちはアニメ、ゲーム、コスプレ、カラオケ、寿司、ショーユ... などが世界を制覇したことを誇りに思ってるんですが。

考えてみれば「自由と平等」をかかげているアメリカに あいもかわらず人種差別があったり、無差別銃乱射事件がおきたり。

私たち小学生はこれからどういう人生を夢みたらいいんですか?


[ 浅見多絵のコメント ]

難しい質問だけど、答は簡単。
自分の価値 (core value) を信じて生きたいように生きなさい。
才能があるんだから、 数学のフィールズ賞と音楽のグラミー賞のダブル受賞で歴史に残る女性になりなさい。

第 6 次産業革命 が実現できれば、 貧富の差や差別のない国境なき時代が訪れます。 Capitalism は卒業。

「The Singularity Is Near」という本に書かれているように 人類の科学技術は指数関数的に速くなってきました。 人類の遺伝子 (DNA) はほとんど変わっていないにもかかわらず。

「国境なき時代」ではレイアちゃんやうちの孫娘は母親になっているでしょう。 二人とも 数学の天才の日 に生まれたことをわすれないように。

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