Math Battle [ 0281: 対称多項式の逐次計算 ]

[ 0281: 対称多項式の逐次計算 ]


[ 西尾三奈さんの出題 ]

(x+y), (x*y + y*z + z*x), (x*y*z) のように項の順番を入れ替えても同じものを 対称式、
実質的な項数が複数なものを「対称多項式 (Symmetric Polynomial)」と呼びます。

f(n) = xn + yn + zn

という 3 変数関数を考えてみましょう。
n は自然数、x, y, z は複素数の範囲で考えてください。

f(1) = 1, f(2) = 2, f(3) = 3 のとき
f(4), f(5), f(6) の値はそれぞれいくらになりますか?

なお、xn は便宜的に x^n と表記されることも多いですが同じ意味です。


[ 広世正憲君の半解凍 (笑) ]

与えられた条件では変数は 3 個、方程式も 3 個ですから x, y, z はわかりますね。

 x + y + z = 1
 x^2 + y^2 + z^2 = 2
 x^3 + y^3 + z^3 = 3

さっそく 狼羊さん (Wolfram|Alpha) に解いてもらったところ:

変数が 3 個ですから解は 3! = 6 とおりの順列になります。

青で示すのが複素平面上の単位円 (半径 1)。
円内のものと円の外に飛び出すものがありますから、
f(n) の値は n が大きくなるにつれて振動を繰り返すでしょう。


x, y, z の 3 変数でできる対称多項式は次の式を組み合わせて全部できるもの
と仮定してみます。

x + y + z a と呼ぶことにします
x*y + y*z + z*x b と呼ぶことにします
x*y*z c と呼ぶことにします

まず (x+y+z)^2 の展開式から始めてみます。何かわかるかな?

(x+y+z)^2 = (x^2 + y^2 + y^2) + 2*(x*y+y*z+z*x)

a = x + y + z = f(1) = 1 は既にわかっています。
1 = f(2) + 2*b
f(2) = 2 ですから b = -0.5

次に (x+y+z)^3 の展開式をやってみましょう。

(x+y+z)^3
= (x^3 + y^3 + z^3)
+ 3*(x+y+z)*(x*y+y*z+z*x)
- 3*x*y*z

これは恒等式です。

与えられた値をあてはめて:
1 = 3 + 3*1*(-0.5) - 3*c
c = 1/6 であることがわかりました。

次に (x+y+z)^4 の展開式をやってみましょう。

(x+y+z)^4
= (x^4 + y^4 + z^4)
... この先を a, b, c でどう表現できるのかわかりません。

もっとエレガントな解法を教えてください。


[ 西尾三奈さんのコメント ]

正憲君、b と c の値は正解です。
解説は別記事で書きますから、次の記事でも読んでいてください。

対称式 (日本語版 Wikipedia)

アルベール・ジラールは 1629 年に「代数学の新しい発明」 (Invention Nouvelle en l'Algèbre) において、 n 次の代数方程式の根と係数の関係を発見した。

代数方程式の係数は n 個の根の 基本対称式 と呼ばれる対称式を使って記述できることは 一般の次数の代数方程式の構造を調べるための重要な足掛かりの一つとなった。 さらに、ジラールはこれらの関係を用いて虚数の有用性を説いた。

18 世紀の後半になると、任意の対称式は基本対称式によって書くことができることが ウェアリングやヴァンデルモンドらによって示され、 ラグランジュによる代数方程式の根の置換の研究へとつながっていった。

...ということなどが書かれています。すごい歴史ですね。
最初はとっつきにくいですが、理解できればこの問題は芋づる式に解けますよ。


[ 大宙乗児君のコメント ]

僕は狼羊さんが解いた連立方程式 (f(1)=1; f(2)=2; f(3)=3) の解を使って
狼羊さんにまたやってもらいました。

解の近似値を次の値とします。(x, y, z は交換可能)

 x: 1.43085
 y: -0.215425 - 0.264713 i
 z: -0.215425 + 0.264713 i

(1.43085)^n+(-0.215425-0.264713i)^n+(-0.215425+0.264713i)^n
を n = 4 から n = 10 にわたって計算しますと:

nf(n)の近似値有理数化
44.1666725/6
56.000016
68.58335103/12
712.2778221/18
817.569535139/2000
925.139025139/1000
1035.97003597/100

正憲君の予想を裏切って単調増加になりましたね。


[ 西尾三奈さんのコメント ]

乗児君、お疲れさま。結果は正解です。 でももっと理論的に考えましょうね。


[ 井伊莞爾君のコメント ]

なるほど。乗児君は狼羊さんに次のように入力して
n の値をどんどん変えていったわけですね。便利な計算ツールだなあ。

出てきた計算後の値をクリックすると有理数表現も得られるし。

何らかの規則性がありそうだから、
ひょっとしたら再帰的に計算できるかも知れませんね。


[ 湯会老人のコメント ]

Newton–Girard formulae の話ですね。
三奈さんに基本概念を説明していただいたら私が計算プログラムを書きます。

なおこれは代数学の世界にとどまらず一般相対性理論の確立にも影響を与えています。

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