0005: Dick の不条理な世界

[ 0005: Dick の不条理な世界 ]


[ Philip K. Dick ]

南門疾矢君の解説。

フィリップ・キンドレッド・ディック (Philip Kindred Dick, 1928 年 12 月 16 日 - 1982 年 3 月 2 日) は、アメリカの SF 作家。 ディックの小説は社会学的・政治的・形而上学的テーマを探究し、 独占企業や独裁的政府や変性意識状態がよく登場します。

後期の作品では形而上学と神学への個人的興味を反映したテーマに集中しています。 しばしば個人的体験を作品に取り入れ、 薬物乱用や偏執病・統合失調症や神秘体験が 「暗闇のスキャナー (A Scanner Darkly)」や「ヴァリス (VALIS)」 といった作品に反映されています。

1963年、歴史改変 SF 「高い城の男 (The Man in the High Castle)」 でヒューゴー賞の長編小説部門を受賞。 この作品では、第二次世界大戦で枢軸国 (ドイツ、日本、イタリア) が勝利し、 アメリカが東西に分断されている世界を描いており、今読み返しても面白い。 ( 映画化されています )

1975 年、未知のパラレルワールドで目覚めた有名人を描いた 「流れよ我が涙、と警官は言った (Flow My Tears, the Policeman Said)」 でジョン・W・キャンベル記念賞を受賞しました。

ディックはそれらの作品について、
「私は、私が愛する人々を、現実の世界ではなく、 私の心が紡いだ虚構の世界に置いて描きたい。 なぜなら、現実世界は私の基準を満たしていないからだ。 私は作品の中で、宇宙を疑いさえする。私は、それが本物かどうかを強く疑い、 我々全てが本物かどうかを強く疑う」と述べています。

ディックは、自らを "fictionalizing philosopher" (小説化する哲学者) と称していました。 なお、philosopher は、哲学者の意味以外に、冷静な人、理性的な人、 思慮深い人などを指す言葉でもあります。

44 編の長編に加え、ディックは、約 121 編の短編小説を書きました。 そして、そのほとんどが SF 雑誌に掲載されました。

ディックは、作家になってからは、ほぼ常に貧乏でしたが、死後になってからは、 彼の作品が「ブレードランナー (Do Androids Dream of Electric Sheep?)」、 「トータル・リコール (We Can Remember It for You Wholesale)」、 「スキャナー・ダークリー (A Scanner Darkly)」、 「マイノリティ・リポート (The Minority Report)」といった映画になり、 それぞれヒットしました。

2007年、ディックは SF 作家として初めて The Library of America Series に収録されることになりました。栄誉ですね。


なお僕はリドリー・スコット監督が映画化した「Blade Runner」を評価しません。

女性アンドロイドが背後から銃撃されるシーンでは アメリカの映画館で観客からブーイングの声がおきたといいますし、 スモッグで薄汚れた雨が降るロスになんで「強力ワカモト」のネオン看板を出す必要があるのか。 ディック世界を冒涜するものですね。

[ 0014: 宇宙衛生博覧会 ]

[ 0013: 白鹿亭奇譚 ]

[ 0012: 関節話法 ]

[ 0011: 透明人間の告白 ]

[ 0010: 第5惑星 ]

[ 0009: カムイの剣 ]

[ 0008: 夏への扉 ]

[ 0007: 火星年代記 ]

[ 0006: トリフィド時代 ]

[ 0005: Dick の不条理な世界 ]

[ 0004: 涙滴型宇宙船 ]

[ 0003: 竜の卵 ]

[ 0002: 第4間氷期 ]

[ 0001: ジャズ大名 ]

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