[ 0013: 白鹿亭奇譚 ]
[ 湯会老人が Amazon に書いた書評 ]
原題は「Tales from White Hart」。
Hart は鹿。実際に白い鹿は存在します。
さて、ロンドンのとある場所に白鹿亭 (はくろくてい) というパブが昔あり、
毎週水曜の夜には SF 好きな常連が集まっていたそうな。
いずれおとらぬ該博な知識とユーモアセンスの持ち主。
彼らが披露する奇想天外な物語に、まわりの酔客もつい身を乗り出して...
英語のタイトルが、好奇心をそそります。訳者のセンスもなかなかのもの。
ビシッと正統に訳すかとおもえば、思い切った意訳も。
- Silent Please
- Big Game Hunt
- Patent Pending
- Armaments Race
- Critical Mass
- The Ultimate Melody
- The Pacifist
- The Next Tenants
- Moving Spirit
- The Man Who Ploughed the Sea
- The Reluctant Orchid
- Cold War
- What Goes Up
- Sleeping Beauty
- The Defenestration of Ermintrude Inch
この中で、もっともワケがわからないタイトルは最終話です。
ここでは第 1 話のエッセンスだけご紹介。
ある人物がまわりの騒音を完全に消す消音装置を作ります。
周波数が同じで半波長ずれた光が干渉で消えるように、
音波もこの手を使えば消せるのではないか。
で、装置は完成。まわりは無音状態。しかし、しばらくすると突然大爆発が。
音は空気の振動、したがって運動エネルギーを持つ。
エネルギー不滅の法則にしたがうと、
消えた音のエネルギーの蓄積が爆発事件の原因ではないか?
ここであなたが、ふーんなるほど...と思ったら、クラーク先生のゼミでは落第。
半波長ずれた音波を作るところで、どこからかエネルギーの借金をしているはず。
だから、帳尻は常に合って爆発エネルギーは蓄積しない。
と、考えると夜眠れなくなることを防止できます。
他にも、物理学の基本概念がモロにタイトルに出たり、密かに隠れていたり。
じっくりと白鹿亭を偲んでください。
[ 井伊莞爾君のコメント ]
面白そうですね。ご紹介ありがとうございます。
僕もさっそく早川書房から出版されている訳書を読んでみます。
「2001年宇宙の旅 (2001: A Space Odyssey)」の映画は
なぜ HAL9000 がディスカバリー号の乗組員たちを殺そうとしたのか、
モノリス (Monolith) はどこから来たのかなど謎だらけでしたが、
SF 法螺話にはなんとかついてゆけそうです。
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